雪花伽

たぬきと添い寝したい。

『虐殺器官』/『ハーモニー』伊藤計劃〜地獄はここにある。この頭の中に

伊藤氏は、言葉をとても大切にされている方なのだなと感じました。

一文一文を祈るように書いておられるのでしょう。

 

虐殺器官』の主人公はアメリカの暗殺部隊。

世界各地で虐殺が起こり、その虐殺が起こった場所に必ず現れる、ジョン・ポールという男を追います。

 

主人公は暗殺のエリートでありながら、とても普通の感性を持っていることが分かります。

 

その主人公が作中で起こる色々な出来事に圧倒され、絶望し、自棄になり、あのラストを選ぶという過程はまさに闇堕ちというべき。

追う側からいつの間にか追われる側へ。

主人公に感情移入しすぎて呆然としてしまいました。

マジでクラヴィスさま、ピザを食う堕天使……。(しかも強いから誰も倒せる気がしない。)

 

ガチガチのSFと思いきやかなり読みやすくて、どこか現実に起こりそうなリアリティがあるんですね。

SFなのに現代に通じるところがあって、不思議と現代日本的な感性を感じました。

 

タイトルの意味がよく分からないと感じるかもしれませんが、ことばは器官、つまり内臓と同じように進化の過程で今の姿になっているということで、ことばを器官として捉えています。

意味が分かると、確かにこのタイトル以外つけようがないと感じるかもしれません。

 

虐殺器官』が地獄を描いた物語だとしたら、『ハーモニー』は天国を描いた物語であると思います。

 

『ハーモニー』は作中には明記されていないですが、『虐殺器官』から数十年後の未来です。

「大災禍」と呼ばれる、人々が殺し合い、核爆弾が炸裂し、病気と癌が蔓延するという惨劇が起こりました。

ジョン・ポールつみぶかい……。

 

その反省から、人々が公共の資源として管理され、互いが互いを思いやる社会になりました。

つまり、人が個人としてではなく、人間という種族全体として生きる世界です。

 

人々はWatchMeというシステムを体内に入れて、健康状態をチェックされているのですが、

そのシステムがジャックされ、何千人の人々が世界各地で同時に自殺を図るという事件が起きて、という話。

 

『ハーモニー』のラストでは、一瞬天国を見せてくれました。

よく死んだらどうなるという問いで、自他の境界が融けて全てと一体になり、幸せな気持ちになるというのがありますが、そういう死後の世界があれだったんじゃないかと。

 

文章を色で表現するのってどうなのかと思うのですが、

虐殺器官』は死の漂う静謐なペールブルー。血と硝煙のにおい。

『ハーモニー』はひたすら無菌室のようなニュートラルな白で、そこに主人公の深紅のコートが映えます。

 

ジョン・ポールのしたことは正直許されないことだと思っている(自業自得もある)し、主人公も然りです。

あと『ハーモニー』の世界も一見天国なんですけど、自分がなくなるのは果たして幸せなのかな? と思ってしまったりして、

この両極端な二つの世界の間くらいになんとかいられたら、丁度いいのだろうなと思います。

余談ですが、『虐殺器官』というタイトルが物騒すぎて本を親に捨てられた少年がいて、今度は優しいタイトルをつけます、って伊藤氏が言ってるエピソードが面白かったです。 

 

SFの金字塔と言われるだけあって、完成度の高い作品です。

それにしても夭折され、代表作の3冊しか読むことができないというのが悔やまれます。

最後の『屍者の帝国』も大事に読んでいきたいと思います。

 

お疲れ様です。