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雪花伽

たぬきと添い寝したい。

まやかしの月 下1-1

5-1.Zdzisław Beksiński:終焉の画家

 「――三回見たら死ぬ絵?」

「そうそう。今ネットで話題なんだけど、三回見たら死ぬっていう絵があるらしい」

 クズの声は上気している。それでいて、本気では信じておらず、面白がっている。本当に死んでしまえばいい。

 後ろの席のゴミが声を上げた。

「えー、俺三回見ちゃった」

 じゃあ俺死ぬかもー、と間の抜けたように言う。

 くだらない。

「――ん? 何か言ったか、瀧上」

 そうか、何度でも言ってやるさ。くだらないんだよ間抜けども。

 莫迦どもの相手は疲れる。そんな内心とは裏腹に、僕は人に好かれやすい話し方を意識しながら、そんな奴の数人と会話していた。社交辞令ってやつだ。社交的で人当たりのいい人物を演じる。そうやって周囲の信用を勝ち得ておけば、いざというときに動きやすい。低俗なクラスメイトどもはやはり低俗で、僕がその裏でどんなふうに彼らを罵っているか、そんなことをも想像しようとはしないのであった。

「見せて」

 僕は身を乗り出して、彼の持つ携帯端末の画面を覗き込む。

「お、ちっさいけど度胸ありますね。さすが副会長」

 誰が小さい、だ。

 見覚えのある絵だった。

 見た瞬間、急発進したまま急ブレーキをかけたように、みし、と心臓が軋む。一瞬その光景を見ると、反射で吃驚してしまったのだ。ただ、これなら僕も三回以上見たことがある。

 木のテーブルと、白いテーブルクロスの上に、無表情な女の生首が載っているだけの不気味な絵だ。首の断面からは白い粘菌のような糸を生やしている。

「ああ、それはベクシンスキーだね」

「何それ」

ポーランドの画家。その世界観は退廃的で残酷でありながら、荘厳な美を併せ持っていると言われている。作品の意味づけや詮索を嫌って、彼の絵には全てタイトルが付いていない。こういう作風だけど、本人は意外と話し好きだったらしいよ」

 ぽかん、と口を開けている。どうも興醒めさせてしまったらしいな。僕は続けた。

「ちなみに二〇〇五年に刺されて死んだ」

「うえー、まじかよ」

 僕が話題を提供したので、喜ばれた。

 ズジスワフ・ベクシンスキー。別名、〝終焉の画家〟は、二人の若者に襲われ、殺された。十七ヶ所も刺され、うち二つは致命傷だったという。ま、あの教育実習生とは全く関係ないけどね。

「――にしても、瀧上って絵詳しいな。もしかしてファンだったりする?」

 僕は微笑みさえ浮かべ、答えた。

「親戚に画家がいるもので」