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雪花伽

たぬきと添い寝したい。

まやかしの月 上0

まやかしの月 上

PAPER MOON; breeding nameless monsters

waxing moon

 

あらすじ

 北欧神話の美しくて賢い、だけど困るくらいに気まぐれな火と悪の神、ロキ――屋上で絵を描く美貌の少女は、実の兄を刺した前科持ちだった。病的な物忘れに悩まされる梓川律人は、彼女を気にかけるようになる。変わり者の教育実習生が探る天才芸術家にまつわるゴシップ。一年前に飛び降りた、存在しない少女。次々と不可解な出来事が襲いかかり、次第に夢と現実の境界があやふやになっていく。

 

目次

1.目を閉じて

2.人間の条件

3.我が子を食らうサトゥルヌス

4.人間は人間にとって狼である

Chapter1:蝶夢

「今はどんな課題をやっているんですか?」

「各時代から一作品ずつ選んで、架空の美術展を企画して、その図録をデザインする。テーマは自由。なかなかみんな面白いのを持ってくるよ」

「へえ、面白そうですね」

 僕は美術を取っていないが、率直にそう思った。

 椅子にかけた先生は、手持ち無沙汰に手首を揺らしながら、誰に言うでもなく呟く。

ジョン・キーツは言った。『耳に聞こえるメロディは美しい。しかし聞こえないメロディはもっと美しい』と」

 絵を調べようと美術の資料集に手を伸ばしたとき、何者かに腕を掴まれた。目が合う。見咎められた。

「だからね、たとえ知らない絵があっても、調べないで。君の思い浮かべた絵は、きっと本物よりも美しい。その想像力を大切にしてね」